また眠れなくなった
イチジクの次にキンカンの剪定をしていると
畑に母が来た。
一輪車にジョウロを乗せて。
年の暮れに蒔いた野菜が育ってきている。
それらに水をやりたい と。
自宅の水栓で水を汲んで運んできた。
ヨタヨタとした足取りに見かねて
ホースを出してあげようか と声をかけた。
聞こえなかった。
近くまで行って耳元で伝え
冬の間は片付けている
散水ホースを水道に繋げた。
しかしホースは老朽化しており
あちこちのひび割れから水が吹き出した。
はーなーもー
これは廃棄。
新しいホースを調達して
自宅から畑の真ん中まで設置した。
水源が近くなって母は喜んだ。
それからスモモの剪定をして
枝葉を焼却スペースまで運び
さらにソラマメを支柱に止めつけた。
日暮まで働いて心地よく疲れた。
朝までゆっくり眠れるだろう。
そう思っていた。
夜中の1時に目が醒めた。
それから眠れない。
2時、3時・・・
細切れに目が醒める。
老いた母の姿に
自分の行く末を感じたせいだろうか。
母には私がいるが
私には誰もいない。
誰も助けてはくれない。
人は誰でも老いていく
それは逃れられない宿命だ。
ダンは快活な人だった。
仕事は精力的にする人だった。
生涯現役だ と豪語していた。私にも
身体を鍛えろ と言っていた。
だから私はジムに通いはじめた。
筋力をつければ私の腰痛も抑えられるだろう。
2人でいつまでも農業をするつもりだった。
ダンがいた頃は
老いに恐怖を感じることはなかった。
私はひとりで老いていく。
この畑にひとり。
この家にひとり。
考えないようにしていても
不安は心の奥底に巣食い
じわじわと育っていく。
また夜中の3時すぎに目が覚めた。
それから眠れない。


