逃げたい

準確定申告を済ませる都合で

ダンの預金がすべて凍結された。

JAから引き落としができないと通知があり

窓口に支払いに行った。


出荷用の米袋を

ダンが最後に買っていた。

出荷手続きの書類も書いて

稲刈りの準備もしていた。

その数日後にダンは急死した。


待っている間、

奥から所長が出てきて話をした。

対外的なことはすべてダンがやっていたから

私の知らない人だったが

その人はダンのことをよく知っており

ダンを偲んでくれた。

そして今後のことを心配してくれた。

稲刈り後に耕しましたか

15℃以下にならないうちに耕さないと

藁が腐りませんからね

耕作を続けるのなら

資材の申し込みが迫っています

忘れないでね と。


ダンは役員をしていたから

町内の農業関係者は

全員ダンの死を知っている。

ダンがいなくなったあと

農業を続けるのか、それとも手放すのか

みな息を殺して見守っている。

見張っている と言う方が適切か。


農業は地域の共同作業だから

ひとりでも欠けると支障が出る。

耕作放棄した場合、

水の手配や草刈りなどをはじめ

諸々のことを交渉せなばならない。

稲作を続ける場合も

同様以上の手間がかかる。

稲の苗を植えたとして

収穫までの世話ができるのか。


嫌だからやる気がないから と

やめてしまえるレベルではない。

やめられない。



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