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3月, 2025の投稿を表示しています

悲しみの上書き

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納骨の2日後に 義姉が電話をくれた。 どうしているのか気になって と。 もっと早くに電話しようと思っていたのに 遅くなってごめんね と。 ダンも私も義姉が苦手だった。 ぺらぺらと言葉数が多く 中身のないおしゃべりが長い。 相談すると見せかけて 人の話は聞いていない。 容易にこちらの話に同調したり 今までの話を覆したり・・・ 何かどこにも芯がないような いいかげんに話をする人だった。 義姉の話を聞くのは疲れると ダンは言っていた。 私もそう思っていた。 でも、今は違う。 義姉は相変わらずぺらぺらと話す。 澱みのない言葉の羅列・・・ 気遣いと労りの言葉が 岩肌を流れる水のように私に注がれる。 なんなのだろう、この人。 どうしてそんなに 私に優しくしてくれるんだろう。 この人のお喋りを 私は初めて心地よいと感じた。 義姉とダンの話をした。 私はダンに対してできなかった事が多い。 たらればの話ばかり。 義姉は後悔に泣く私を慰め、 時に否定して 私を励まそうとしてくれる。 電話口でおいおいと泣いてしまった。 忘れかけていたダンへの思慕が 津波のようにふくれあがり できたばかりの堤防を突き崩した。 そうして結果的に また悲しみのどん底に落ちてしまった。 嫌な気持ちがしないのは ダンを失った悲しみに 私はまだ ひたっていたいからだろう。

死別の苦しみは果てがない

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ウクライナやイスラエルの紛争のように いつ終わるかわからない苦しみがここにある。 あと何ヶ月、1年、数年後と期限を切られれば 本人も立ち向かうことができるかもしれないが 彼の国の出来事も、いまは人ごとではないと感じる。 死別が辛いのは終わりが見えないこと。 もちろん何がしかの対策はあるとおもう。 グリーフケアを受けたり、 心療内科に通ったり ストレスを感じる人から遠ざかったり 生活環境や習慣を変えたり。 他にも色々とあるだろう。 やろうと思えばできるとおもう。 でも、そのやる気が おきないときはどうしたらいいんだろう。 ダンがいなくなってから 私の時間は止まったまま。 しかし周囲の時間はどんどん進んでいる。 世間の人はもうダンのことを忘れたようだ。 春になり、新しい事が動き始め みな、それに関心を注ぎ、行動を始めている。 忙しくて 人の悲しみなんかにはとりあっていられない。 私はガラス窓のこちらから それらをぼうっと眺めている。

納骨の日

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とても遅くなったが 昨日、納骨した。 墓仕舞いする家が多い中、 墓地をリフォームした。 傾いていたところを整地して きれいに整えた。 ダンは生前、墓参りのたびに 墓が傾いているのを とても気にしていたから。 ダンの骨が骨壷から取り出され 南無阿弥陀仏と書かれた布袋に移された。 それを新しい石室に収めた。 これから長い年月を経て 朽ちていくのだろう・・・ 儀式が終わっても 最後まで墓石の前にいた娘。 泣いていた。 ダンはもう仏様になっているから ここにはいない 浄土で心穏やかに過ごしている。 なのに悲しい。 生きている私たちは ダンのことを思うと泣けてくるのだ。 ダンがいなくて寂しい。 もっと一緒に過ごしたかった。 生きていて欲しかった。

保険は助けてくれなかった

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口座が凍結されたため 引き落としができないと保険会社から通知があり 本人が亡くなったことを伝えると 外交員が家に来た。 ダンが掛けていたがん保険・・・ 死亡原因はがんではなかったため 保険金は降りなかった。 ダンは私も含めて夫婦で加入していたらしい。 もう20年以上の前のこと。 知らなかった。 それくらい呑気な私。 外交員は執拗に継続を進めてきた。 がんだけに特化した保険・・・ ダンは別の病に倒れた。 私はどうだろうか。 将来、がんになるのだろうか。 ダンは何を考えて この保険に入っていたのだろう。 名刺をよく見たら、 勤めていた会社の系列だった。 そうか。 仕事の付き合いで入ったのかもしれない。 どうしよう。 考えても私にはわからない。 こういったことはすべてダンが仕切っていた。 何が良くて何が無駄で 的確に判断していつも最善の方法をとっていた。 いつも持論を語っていたダン・・・ ダンだったらどうするんだろう。 わかっていることは この保険が助けにならなかった  ということだけ。 だからきっと私の助けにもならないだろう。 毎月、それなりの保険金を払い続けても がんにならなければ意味がない。 掛け捨てだから死亡後の払戻金もない。 どうしよう。 考えられないよ、 私には決められないよ、ダン! 結局、押し切られて 再契約することになった。 担当者は声を弾ませ、嬉しそうに 生き生きとして手続きをすすめた。 ダンが亡くなったから こういうことになっていることを忘れている。 少しぐらい、気遣いがあってもいいのに。 ビジネス優先・・・ 外交員が帰った後、 いきなり寂しくなって とても気分が沈んでしまった。 今、がんになりたい。 ステージ4の余命半年、 どんどん悪くなって ダンのいなくなった日までに この世から消えてしまいたい。

また夜中に・・・

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目が覚めた。 同時に足が攣った。 痛さに飛び起きてふくらはぎを揉んだ。 水分不足だろうか。 トイレに行って水を飲んで すっかり目が覚めてしまった。   昨日、一時帰国していた甥っ子がきてくれた。 ダンに会ったのは一昨年の初夏だったか。 仏壇に手を合わせて  信じられない と言っていた。 私も信じられない。 ダンがもういないなんて。 まだ信じられない。 いろいろと話をした。 彼にも悩みがあって ダンを頼りにしていたと言っていた。 もうダンと話せないのが寂しい、悲しいと。 2人、涙がポロポロ どうしようもないつらさがくりかえし 波のように寄せてきた。

いろんなことが動き出したが

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春、3月は異動と移動の月。 娘は新婚時代から住んでいたアパートから 旦那の実家に引っ越した。 思い切ったことをするものだと思う。 いまどき、旦那の親と祖母と同居するなんて。 何を考えているんだろう。 いや、考えに考えた結果なのだろう。 今月に入ってからあちらの両親の手を借り、 少しづつ荷物を運んでいたようだ。 娘が結婚するときに 一緒に探したアパート。 不動産屋とあちこち内見して回り ひと目で気に入った。 我が家とはまったく違う、 最新設備を整えた マンションのような部屋だった。 寸法を測り、 家具も家電もすべていちから揃えた。 娘と共にワクワクする日々だった。 娘が結婚してからは ダンと一緒に何回か遊びに行った。 娘は自分の好きなものを飾って 楽しくやっていた。 みんなで近所にご飯を食べに行った。 美味しいところがたくさんあった。 昨年の孫の初節句には 鯉のぼりと兜飾りを届けた。 昨日が退去の立ち会い日だった。 がらんとした部屋の様子がLINEで送られてきた。 何もかも消えてなくなった。 いつまでも続くと思っていた楽しい日々が また終わりを告げた。 旦那の実家で暮らす娘と孫に 私が会いに行くことはもう無いだろう。 息子の希望がようやく叶い、異動が決まった。 隣の県に部屋を借りて今週末には引っ越してくる。 そこを拠点に仕事をするようだ。 息子は田舎家の暮らしを嫌っている。 就職と共に家を出てもう10年以上。 日本のあちこちを転々としながら 都会暮らしを満喫していた。 私も今更、同居もどうかと思っていた。 好きにすればいい。 みんな好きにすればいい。 動きのないのは私だけ。 ダンがいなくなった家で じっと息を殺して生きている。

旅行は最悪だった

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今年はどうしたんだろう。 みんな喪に服しているのかと思うくらい 暗くて寒くて鬱陶しい毎日。 雨もよく降る。 晴れた日は花粉が飛ぶ。 いよいよ気が滅入ってきたので 思い切って南の島に出かけた。 青い海、明るい空、 誰も知った人がいないところで こころを洗いたい・・・ 結果は最悪。 飛行機は天候悪化のため 着陸できずに旋回を繰り返し 離発着に遅延が出た空港は 通勤ラッシュ並みの混雑ぶり。 座る席もない。 なんとか乗り継いで着いた島も ただ湿気が多いだけのどんより天気。 期待していた風景がなかった。 これはわたしのせいなのか。 私が雨を連れてきたのか。 ダンは晴れ男だった。 さっきまで土砂降りだったのに、 出かける頃にはぴたりと雨は止む。 大切な行事のときはいつも晴れ。 外仕事でも、 作業を終えるまで 自宅倉庫に機械を入れてから 雨が降り出すことが多かった。 ダンといたときはいつも晴れていた。 ダンがおおきな傘になっていたのだ。 到着日だけ薄曇り。 ホテルの周囲には何もなくて 野道を20分かけて町まで歩いた。 シーズン前だからか ほとんどの店が閉まっていた。 商店街に人影が無い。 まるで廃墟。 何も無い・・・ エメラルドグリーンの海 南の島の青空と爽やかな風 満天の星 期待していたものが何も無かった。 ただ、どんよりとした風景が広がっていた。 こんなはずではなかった。 ダンがいたらこんなことはなかった。 いつもうまく行っていたのに・・・ 翌日から雨。 そして南国らしからぬ気温の低下。 ホテルの人が この時期にヒートテックを着るなんて と驚いていた。 彼女はダウンベストを着ていた。 せっかく遠くまで出かけたのに 雨に会いに行ったみたいだった。 帰り際まで横殴りの雨は続いた。

死別という持病

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いつも読ませていただいている方が 死別の悲しみが癒えていく過程でも 時折、胸が苦しく息もできないほどの 苦しい辛さに襲われる と書いておられました。 これはもう、発作だと。 死別という持病もちになったのだと。 配偶者との死別は特にひどい病だと思う 時間が経っても 何かで紛らわしても ふいに何かのきっかけで 悲しみの発作が起きる もう逃れられない・・・ 一生付き合っていかねばならない 持病なのだ。 でもびくびくしていてはいけない。 その方は 何か楽しみを作って 先へ進む、日々をやり過ごして生きていく   と説いておられます 前を向いておられます。 すごいな と思う。 数年でそんな気持ちになれるだろうか。 私はまだまだ 下向きだな 今日も散歩の途中で地雷を踏んで 地面にポタポタと涙が落ちた。

うそをついた

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旅先でふらっと入った居酒屋。 カウンター席に案内された。 おひとりで旅行? 隣の人が話しかけてきた。 ええ・・・ 主人は友達と出かけているので 私もね。 うそ 大うそ ダンは死んだと言えなかった 言ったら その場で泣き出してしまうから。 泣く女に その人も店の人も困るだろう ダンもどこかで呑んでいる 友達と楽しくやっている そう思いたかった。

春はゆううつ

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4月の暖かさから一変 また寒くなった。 しかも冷たい雨が降って 指先がかじかんで 頭が痛くなって 暗い空をみていた。 そして気分が落ちてゆく・・・ 昨日から鼻がムズムズ くしゃみを連発。 また嫌な季節がやってきた。 花粉に反応する私。 生きているあかし。 いつも春は憂鬱だった。 薬を飲んで せっかくの春なのに嫌だわ どこにも行きたくない などとダンに言っていた。 毎年のことに ダンはあきれたような お気の毒さま というような 愛想笑いを返してくれた。 もうダンはいない ひとり鏡の前で鼻をかむ 背後に影が見えないか と。 霞でもいい 風でもいい そこにいるのなら・・・

ゆき

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寒かった日 空から落ちてくる 白くて冷たいものを見て ゆき と孫が言った この前まで マンマとブーブーしか言わなかったのに 今はいろんな言葉が その小さな口からこぼれ出す 空を見て 自分の手のひらを見て ゆき じいじに聞かせたかった